コラム

社交ダンス物語

2017/10/02更新

社交ダンス物語 210 続・眼科医は語る 長寿化社会

続・眼科医は語る 長寿化社会


 さて、前話では(第209話)、日本人の失明原因の第2位は糖尿病と申し上げました。第1位は緑内障です。ここで緑内障について、少しお勉強をしましょう。緑内障は眼の神経の数が減り、視野が欠けてくる病気です。生まれた時にはおよそ140万本あった網膜の神経線維は、健常人でも年間約9千本ずつ減少するといわれています(いわゆる老化現象)。このペースで減少しても、120歳ぐらいまでは失明することはないと推測されます。しかし、緑内障の人は目の神経が減るペースが健常人に比べて早いため、発見・治療が遅れると、天寿をまっとうする前に視力を失ってしまいます。40歳以上では20人に1人が、70歳以上では10人に1人が緑内障といわれ、年齢とともに有病率は増えております。

 残念ながら今のところ、緑内障を治すことも進行をくい止めることもできません。でも、緑内障と診断されたからと言って、悲観することはありません。命のある間、眼をもたせれば良いのです。医学は日進月歩しており、良いお薬がどんどん開発されています。緑内障と診断されたら、病気とは一生のおつきあい。生涯、生活に困らないためにも、緑内障の早期発見・早期治療は肝心であり、緑内障の人は毎日決まった時間に目薬を忘れず点眼することが、とても重要となってまいります。(三度の飯は忘れても目薬は忘れるなと、田舎の目医者は力説しています。)糖尿病と同じ、自覚症状が出てからでは病気は相当に進行しています。40歳を過ぎたら、年に一度は眼科受診することが推奨されています。

 さて、総合病院に勤務していると、よその科のドクターからこう言われることがあります。
「眼科はいいわねぇ 患者さまは死なないから…。」
眼科医は、全然良いとは思っていませんよ。なぜって? それは患者さまが死なないからです。内科の先生にしても外科の先生にしても、主治医をさせていただいている患者さまがご臨終を迎えられたら、患者さまやそのご家族とのお付き合いは、そこで終わりとなります。(つまり、エンドポイントがあります)しかし眼科には、エンドポイントはありません。視力を失っても患者さまは白杖をついて、もしくは家族に連れ添われて眼科医の前にそのお姿を現されます。
「先生のお顔が見えません。」
「贅沢は言いません。せめて光だけでも…」 
痛切にそう訴えかけられながら。命あっても見えなくなることは死活問題。命が先か、目が先か…余命が長くなった現代、眼科医があえぎ、悶え苦しむゆえんはそこにあります。

 さて話をダンスに、とある競技会場において。ある年輩の選手の方から、うちのリーダーが歳を聞かれた時のことです。
「もう、50です。」
そう答えたところ、その先輩はこうおっしゃったとか。
「50は、あんちゃんだ!」
日本は世界トップクラスの長寿国。長寿化社会において40、50は鼻垂れ小僧? 一昔前は緑内障の患者さまに向かって、眼科医はこう申しておりました。
「80歳(平均寿命)まで目をもたせるために、頑張りましょう。」
しかし今や、人生100年時代。目の前の緑内障患者さまに向かって、眼科医はハラハラしながらこう申し上げる次第でございます。
「80は、あんちゃんです。目薬は絶対に忘れないでくださいね!」
長寿化社会において、眼科医からのメッセージ。40歳を過ぎたら、目の定期検査を。したたかに健やかに生き抜きましょう。(笑)

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