社交ダンス物語 368 何歳までするか、できるか?

コラム

 皆さま、車の運転免許証はお持ちですか? 
「持っている。当然だ!」
はい。では、ご自分は何歳まで車を運転なさるおつもりですか? 自動車免許更新では、視力検査は必須ですね。視力が足りなくて、眼科外来に駆け込まれる患者さまもいらっしゃいます。その中には80代後半の方も少なくありません。視力が足りない原因としては、白内障が多いです。白内障手術を受けられることは、大いに推奨いたします。でも、運転免許更新目的となると「ちょっと待って!」と眼科医は複雑な心境になるのですよ。高齢者ドライバーによる事故は増えています。自分もその被害者の1人でした。(第223話)とはいえ、90過ぎても、颯爽と車を運転して美容院へ通っておられるマダムも存じております。
 
 「何歳まで執刀するのだろう…。」
 自分は50歳を過ぎた頃から、そう思うようになりました。車の運転免許とは異なり、医師免許には75歳を過ぎても適正検査はありません。先月、京都で開催された日本眼科手術学会総会にて、総会長企画『眼科サージャン;何歳まで手術をするか、できるか?』というセッションがありました。とても興味深いタイトルだったので、自分は拝聴してまいりました。ご講演なさった先生方は70代。ブラック・ジャックと呼べる日本の著名な先生ばかりです。執刀医として退くタイミングについては、「患者が私の手術を希望しなくなった時」、「昨日より今日の手術手技が劣ったと感じた時」だそうです。医療は厳格。年寄りがやるから、うまくゆかなくてもよいという訳にはゆきません。やる以上は現役なみの成績を上げるべき。しかし、どんな名医でも年をとれば、目は衰え、指先の動きは悪くなります。大先生いわく、ここで少しずる賢くなれと。今やAI、ロボットが手術をする時代です。良い機械を使って、より安全でよい成績が出るような方法を考えてはどうかとのことでした。(事務長さん、お願いしまーす♥)
 
 さて、海外のある研究グループによると、2007年生まれの人の2人に1人が100歳を超えるそうです。107歳で大往生した日本の彫刻家、平櫛田中(ひらくしでんちゅう)は、こう語っていたそうです。
「六十七十ははなたれ小僧、男盛りは百から」
それが現実味を帯びてくる時代の到来でしょうか?
「天我をして五年の命を保たしめば、真正の画工となるを得べし。」(天がわしをもう五年間だけ生かしておいてくれたら、私は真の画家になれただろうに)
これは、90歳にて臨終を迎えた江戸時代後期の浮世絵師、葛飾北斎(かつしかほくさい)の辞世の言葉です。北斎は、こう述べていたそうです。
「…70歳以前に描いたものは、実に取るに足りないものばかりである。73歳にして、ようやく禽獣虫魚の骨格や、草木の生え具合をいささか悟ることができたのだ。だから、80歳でますます腕に磨きをかけ、90歳では奥義を究め、100歳になれば、まさに神妙の域に達するものと考えている。百十数歳ともなれば、一点一画が生き物のごとくなるであろう…」
 
 本題へと戻ります。「何歳までするか、できるか?」 青春とは心の若さであり、理想をなくす時、人は老いるといわれます。現状に満足してはいけないという精神、高い目標設定と向上心が、老いを吹き跳ばす原動力になるようですね。加齢とともに、全て硬くなってしまうのが現実です。筋肉も脳もそう。とはいえ何歳までと線を引くのではなく、元気と好奇心と向上心を持って、挑戦し続けるのが理想ですね。えっ? シニア・グランドシニアのアマチュア競技選手の皆さま、ご自分は何歳まで競技ダンスをするか、できるかですって? はい、お答えいたしましょう。棺桶に片足を突っ込むまでですよ。××の治療の真っ只中に競技会で踊っていた(第351話・第362話)筆者が申し上げるのですから、間違いありません。(笑)
「もっといいダンスをしたい!」
そのためには脳と筋肉をトレーニングすることが肝心。スーパーでのお買い物、アプリやカードでの決済はスマートですね。でも私は敢えて現金派です。プチ脳トレと指先の運動…小学生に負けじと即座におつりの計算、もしくは財布の小銭入れから素早くコインを取り出しお勘定を済ませます。お財布からお金の出し入れ、おつりの計算ができるうちは大丈夫?(笑)
 著者 眼科 池田成子