コラム

社交ダンス物語

2011/10/17更新

社交ダンス物語 69 「はじめての東宝ダンスホール」

はじめての東宝ダンスホール



 盆・暮れ・正月なく、結婚のあてもなく、競技ダンスの練習に励む40代独身、本業医師という筆者。医学は日進月歩しているというのに、ダンスだけに時間を費やしてはいられない。『うらしま太郎』にならぬようお勉強をすることも肝心だ。毎年国内の学会への参加は欠かさないが、本年度の臨床眼科学会は華の都、東京で開催された。

 学会というと、あまり嬉しい顔をしてくれないリーダー君。学会期間中の数日間は、二人でダンスの練習が出来ない。ダンス馬鹿のリーダーは、練習を一日欠かすことに、罪悪感を覚えるという(笑)。だがパートナーにとっては、こんな時こそ自分へのご褒美。普段はリーダーとしか踊らないが、生バンドの演奏のもとで、素敵な先生のリードで踊ってみたいではないか(笑)。学会のイブニングセミナー終了後、銀座見物も兼ねて社交ダンスのメッカと称される東宝ダンスホールへと足を運んだ。

 東宝ダンスホールといえば、ダンス愛好家達の憧れだ。そこはまさに、非日常の時間が流れていた。きらびやかなシャンデリア、有名一流バンドによる演奏、ゴージャスで洗練された空間、最高の桜材使用のフロアは光輝いている。お金持ちと思われる着飾ったマダム達が、先生のエスコートで優雅に踊っている。またサロンでは先生と、お茶と会話を楽しんでいた。田舎人の筆者にとっては、ちょっと敷居が高そうだ。

 さて、はじめての東宝ダンスホール、入場料を支払い入館したものの、勝手が全くわからない。客は好みのダンス教師を指名して、30分2千円で踊ってもらえるらしい。初めてのお客様に限り、3曲無料でプロの専属教師が踊ってくれるとのことで、ひとまず椅子に腰掛けて待つことにした。椅子は2カ所に設置してあった。向かって生バンドの真正面にある席、そしてカウンター正面の席。カウンター正面席は、大勢の客で込みあっていた。一方生バンドの正面席は、ほとんどが空席。そこで田舎人は迷わず、空いている席に座る。(後に知ったが、そこは専属教師の座る席であった)

 まもなく、お声がかかる。50代と思われる、すらりとしたロマンスグレーからお誘いあり。

筆者:「先生でいらっしゃいますか?」

男性:「いいえ、違います」

 あれ? と思いながらも、誘われるままその人とホールドを組み踊り出した。するといきなり第一声が…。

「股関節を使って送っていません! 足だけ前に出してもダメです!」

 かくして東宝ダンスホールで、トレーニングを受けることに…。競技である程度鍛えた体だが、その人の動きに合わせて踊るのがやっと。ラテンの曲が演奏されているというのに、ホールの隅で他のお客様の邪魔にならないようタンゴのウオーク・リンクの練習をさせられた。(東宝で、これあり?)コーチャーから受けるレッスン同様に、汗を流しながら必死になって踊っている自分がいた。非日常を求めて行ったが、そこは日常そのものか? 東宝ダンスホール(東宝ダンススクール?)では全身の筋肉を使って、一時間半のダンスの基礎練習が行われたのであった。

 レッスン終了後はご褒美(?)に、カウンターでジンジャーエールをごちそうになった。謎の教え魔の正体は、アマチュアの元競技選手であった。匂いで判ったのだろうか? 自分は競技選手であることを明かしていないのに、その人は最後に笑顔でこう語る。

「あなたのリーダーさん、素敵な人なのでしょうね」

 ちょっとビックリ、はじめての東宝ダンスホール。華の東京で、学会初日の夜からエキサイトしたのであった(笑)。


著者名 眼科 池田成子

前の記事 次の記事 一覧へ戻る 前の記事 次の記事