社交ダンス物語 352 全日本シニア選手権(後編)

コラム

 毎年6月に東京で、全日本シニア選手権が開催されます。本年度のシニア・ラテンアメリカンは、日本全国から44組のカップルがエントリーしました。新潟県からは、自分たちチビ・ハゲが出場。今までの会場は日本武道館でしたが、本年度は有明コロシアム。初めての会場です。
 
 東京駅の構内と同じです。有明コロシアムの中でも、田舎から来たチビ・ハゲは右往左往しています。まるで、ラビリンス。どこに、どう行ったら良いの? 選手控え室にて。全国大会ともなると、そこでの光景は地方の会場とは異なります。カップル達は、皆さん長身で際立つ美しさ。ドレスも斬新的なデザイン。しかもオーラがあります。アマチュア選手ですが、プロと見間違えましたので。
 
 競技用ドレスに着替えて。今回のラテンドレスは、ヒサヤ製です。(第222話)情熱的な鮮やかな赤に、ゴールドの装飾があしらわれています。この日のために気合いを入れて、フルオーダーであつらえました。踊りはダメでも、ドレスだけは負けたくないっ!(笑)どうしたら、フロアまでたどり着けるの? またもやチビ・ハゲは会場の廊下で、右往左往しています。すると廊下で、掲示物を貼っておられる役員の先生からお声がかかりました。
先生:「優勝したら、優勝インタビューがあります。後からお願いします。」
リーダー:「わかりました。よろしくお願いします!」
 
 なんとか選手待機場所の廊下までたどり着くことができました。そこでの光景も、地方の競技会とは全く空気が異なります。廊下で組んで、確認しあっているカップル達は、自分たちとはあまりにもかけ離れているのです。ボディーの使い、足さばき、全く別物。同じ日本人とは思えません。遥かに格上。怖いっ! コワすぎ! チビ・ハゲ、踊る前から足がすくんで、逃げ出したくなりました。こうなったら、コーチャーの言う『ハッタリ』しかありません。無敵で圧倒的な強さの歴代世界ラテンチャンピオンといえば、ドニー・バーンズ先生、そしてマイケル・ジョアンナ組でしょう。
リーダー:「僕はマイケルになったつもりで踊るよ。成子さんはジョアンナさんだ。」
チビ・ハゲ、ハッタリで世界チャンピオンになりきる。(笑)あと、地方で開催される競技会と全国大会との違いは、「ニオイ」ですね。自らを鼓舞し、気分を高揚させる目的でしょうか? 選手控え室も選手待機場所も、外国製と思われる香水の香りでムンムンしています。(関東甲信越では、こんなニオイしない!)
 
 いよいよ試合開始です。日本武道館とまではゆきませんが、有明コロシアムの天井はとても高いのです。上からの眩いライトを浴びて、マイケル・ジョアンナ組もとい、チビ・ハゲはトップスターになった気分で、フロアへと入場。種目はチャチャチャとルンバとパソ・ド・ブレ。競技では踊り出しが「命」です。チャチャチャの出だしのスプリット・キューバン・ブレイクでは、先月大学病院で××の手術を受けたことも忘れて(第351話)、車のハイワイパーのごとく激しく腕を振り回す。ルンバで足上げの時、パートナーはバランスを崩してオットット。背骨の骨が完全にくっついていないリーダーは、懸命にパートナーを支えていた? パソはまさにコロシアムで、命をかけて獰猛な牛との闘いをイメージ。
「我が人生に、悔いはなし!」
病持ち50代チビ・ハゲ、冥土の土産に、踊る、踊る、踊るっ! 結果は、一次予選敗退。(涙…笑)
 
 早々に自分たちの出番が終わり、その後は観戦です。出場選手ということで、チケットなしで入場できました。初めての会場なので勝手が分からず、席は予約しておりません。どこで観戦したらよいの? 会場係の先生に聞いたら、チケットを買わなくても、予約された方がお見えになるまで、空いている席に座って良いとのことでした。ありがたい。お言葉に甘えて、二階席から観戦させていただきました。ところで、パソ・ド・ブレでは、プロ・アマを問わず、どの選手も自分たちの競技の足型の一つであるセパレーションを披露してくれません。派手で見栄えの良いバリエーションばかり。セパレーションは、パソ・ド・ブレの基本中の基本のベーシックステップです。
「誰か、セパレーションやってくれんかねー。」
リーダーはワクワクしながら観戦しています。
やってくれました! ジュニア3組が元気よくセパレーションを披露。さすが、お見事です!(笑)
著者 眼科 池田成子