​社交ダンス物語 357 リーダーとパートナーの会話 38

コラム

 病院の講堂には、ダンスの練習に挑戦する病持ち50代独身男女の姿あり。脊柱管狭窄症の手術を受けて、ボルトで固定されているとはいえ、背骨が完全にくっついていないリーダーは、新調した特注のコルセットをガッチリ腰に巻いてダンスに臨んでいます。他方、××の手術を受けたパートナーは、リンパ節生検した左脇がピリピリ痛いっ!しかも左胸には鉛の玉が入っているかのよう。病持ち、フラフラとルンバウォークをすること2、30分。それからヨタヨタとホールドを組み、ワルツを踊り始めました。
 
パートナー:「前回のレッスンで、コーチャーから指摘されたわね。私たち、下半身は噛み合ってきたけど、トップラインが狭いって。」
リーダー:「下半身が噛み合うと言えば、ダンスをしない人達には誤解を招くだろうね。想像をかき立てるのでは?」
 
 ここで、誤解を解きましょう。ポールルームダンス(スタンダード)では、男女が半身ずれて組み、一体となって踊ります。男女が一体感を保ちつつ踊り、お互いの頭と頭が離れていればいるほど美しいのです。うちの病院の医局や講堂に貼ってある世界のトッププロのポスターを見ていただくと、頷いていただけると思います。その美しさは、ため息がでるほど。一体感を保ちつつ男女の頭が遠く離れて、ダイナミックかつ優美に移動する(踊る)ということは、理論的には下半身(内股と内股)が歯車のように噛み合ってなければ、不可能。
 
パートナー:「頭と頭を離すためには、左回転の場合、自分の体を細くうんと左へしぼらなければね。もっと遠く、左へ左へ。」
リーダー:「イテテて…。」
パートナー:「コーチャーが言っていたわ。筋肉使わないと、腰やられるって!あなたも私も病人よ。病人なら、なおさら鍛えなくちゃ!」
 
 競技ダンスの魅力とはなんぞやと問われたら、男と女の、究極の美の追求と申し上げるでしょう。(笑)
 
☆ Patients be ambitious!  (病人よ大志を抱け!)
著者 眼科 池田成子