社交ダンス物語 372 チビは語る

コラム

 4月、5月、6月といえば学校検診の季節です。自分は糸魚川市内の小学、中学、高等学校の学校医を務めさせていただいております。定期眼科検診の日は、病院の正面玄関前にタクシーが待機しています。白衣姿の自分は、手ぶらでタクシーに乗り込みます。学校へ到着すると、体育館や保健室に学校医用の椅子が用意してあります。通常学校医は、その椅子にこしかけて生徒を診るのですが、チビの自分は椅子には座りません。立ったままの姿勢で、生徒達の目を診ています。小学生の学校検診の時はルンルン気分になれます。なぜかですって? そこでは自分よりも、背の低い子ばかり。自分は「チビ」ではないのです。小学校の学校検診、そこは唯一優越感に浸れる所。(笑)さすがに六年生ともなれば、自分と同じくらいか、やや背が高いと思われる子がチラホラ。
 
 とはいえ、高等学校の学校検診ともなれば、全校生徒の中で自分よりも背の低い生徒はせいぜい3、4人ぐらい。そこではまざまざと自分は「チビ」であることを見せつけられます。背の高い男の子の目を診る時は、自分はつま先立ちすることがあります。ダンスで表現するならば、ワルツの「ツー」のライズで伸び上がっている状態。生徒達は、つま先立ちして踏ん張っている背の低いオバさん(お婆さん?)を哀れに思ってか、長身の男の子達は自分の前に立つとエビのように腰をかがめます。まあるくコンパクトになり、小さくなって…その有様、壮絶!
「♪馬鹿にしないでよ〜」(涙…笑)
本心は、「君たちありがとう!」
 
 話をダンスへ。
「でかくて踊れない人(長身で技術のない男子)は悲惨ね。」
かつて全日本クラスのパートナーさんがそう言っているのを聞いて、チビで踊れないうちのリーダーは、チビであるがゆえにほっとしたというエピソードがあります。(第155話)ここで、ボールルームダンスになじみのない方のために、解説させていただきます。スタンダードでは男女が組んで踊ります。男女間で身長差が大きいと男子にテクニックがない限り、女子はつり上げられてしまい、膝を曲げることが出来ません。膝が曲がらないと送り足が使えないので、横への移動が困難になります。ダンスパーティーで長身の人に踊ってもらったら、自分は物干竿に吊るされた洗濯物同然だったこともありました。(涙)ちなみに男女が組んでマックスな踊りをするためには、身長差は12—13センチがベストと言われています。自分達の場合、リーダー168センチ、パートナー156センチ。その差、まさに黄金律!(笑)
 
 とはいえ、安心してばかりもいられません。チビに磨きがかかっている? 毎年うちの病院で行われている職員の健康診断では、身長・体重が測定されます。
「少しでも背が高く…」
ダンスと同じ、チビは丹田を引き上げて、良い姿勢を意識し、気合いを入れて身長測定に臨みます。50歳を過ぎた頃から数ミリとはいえ、年々着実に身長が縮んでいるのです!(ムンクの叫びマーク)年だから、仕方ない? ただでさえ老いてゆくのに、現在飲んでいる××の薬の副作用に、骨粗鬆症あります。しかも××の再発を抑えるため、10年間はその薬を飲み続けなければならないそうです。
「ジーザス!」
チビ・ハゲオバさん、お酒のおつまみにじゃがりこ(第166話)は卒業いたしました。
「より高く…」
小魚(健康にぼし)をセッセと食べて、牛乳を飲んでいます。往生際悪すぎ?(笑)
著者 眼科 池田成子