社交ダンス物語 373 レジェンドから学ぶ ダンス篇

コラム

 このたび、東京国際フォーラムで開催された日本眼科学会総会に参加してまいりました。本学会のキャッチフレーズは、『視力を尽くさぬ闘い』。なお、「視力のために、死力を尽くす:レジェンド達の闘いの歴史」というテーマのシンポジウムを拝聴してまいりました。日本の眼科学は、その存在感を世界レベルで増しているそうですね。本シンポジウムは、日本語の壁を乗り越え世界に名を轟かせ続けているToyotaやSonyのように、世界に知られる日本の眼科レジェンド達の闘いの歴史を、次に世界に打って出るべき若者へ伝えるために企画されたものです。
 
 世界に打って出るといえば、前教授のお言葉が印象的。
「日本語で論文を書いてはいけません。日本人しか読みませんから。世界で通用するためには、英文ペーパーです。」
当時、医局では医学論文に関して日本語禁止令が布かれていました。お世辞にも出来が良いと言えない自分にとって、英語の作文は拷問そのもの。しかも外国の医学雑誌はクオリティーが高く、一例報告や月並みの臨床データはアクセプトしてもらえないのが現状でした。
「池田先生、まだですか〜 まだですか〜」
前教授は医局の研究室に足を運び、出来の悪い部下の机の周りをグルグルと廻って、論文を書き上げるのを催促なさっていましたね。(だじげで〜…涙)ちなみに前教授は、毎月のように英文雑誌に名を馳せていた「つわもの」です。自分は今、大学を離れ地域医療に携わっておりますが、今日の自分があるのは前教授のお蔭と深謝しております。
 
 自分の場合、レベルの高い学術雑誌にいきなり投稿しても、不採用になってしまうのが現状。若かりし頃、reviewer(査読の先生)からreject(不採用)の通知がくるたびに、自分はまるで固まった塩状態になった記憶があります。医学雑誌も競技ダンスと同じ。ランクがあります。そこで、自分は雑誌のランクを落として投稿しました。しかし、落とされるばかり。自分たちのダンスと同じ? 試合に出まくっても、落とされるだけ。(涙)だからといって、へこんでばかりもいられません。そんな時は小技を使います。眼科の一例報告を、小児科や皮膚科の外国雑誌に投稿します。貴殿のご専門となさる分野のお病気には、目と関連するレアなものがございます。お見知り置きくださいとばかりに。すると眼科の雑誌では相手にされなかった論文も、眼科以外の分野でアクセプトされましたね。エキセントリックな日本人の眼科医がいたとばかりに面白がられた?(笑)これは若かりし頃の、スイートメモリーです。
 
 さて話を眼科のシンポジウムへ。ダンスと同じ、医学論文を書くためには、もの凄いエネルギーを使います。
「せっかくここまで書いたのに、心が折れそう…。」
若い先生が外国の雑誌に投稿して、不採用になってもめげないようにと、最後に三人の眼科レジェンドから次世代へ送るメッセージを戴きました。そこには1)継続する力。2)reviewerの気持ちを知る。査読者が読んで楽しくなる論文を目指す。3)何が何でもレベルを維持する。この雑誌に掲載されるんだというめげない心。この3つが大切だそうです。競技ダンサーの皆さま、これってまさに競技ダンスに相通じると思われませんか。ダンスでいうなら1)継続は力なり。続けていると良いことがあるそうです(A級の先輩の言葉)。2)ジャッジの気持ちを知る。ジャッジもお客様の一人だそうです(コーチャーの言葉)。下手でもジャッジが見たいグッドダンスを目指す。3)何が何でも持ちクラスを維持。このたび、レジェンドから学びました。そして闘うためには体力、気力、知力、めげない心がとても大切なのですね。自分たちチビ・ハゲと同じ、競技会で落とされてばかりという競技選手の方々へ。共に闘いましょう。(笑)
著者 眼科 池田成子