社交ダンス物語 409 『転倒』を科学する

コラム

 皆さまこんにちは。糸病・眼科の池田です。先日、とやま眼科学術講演会に参加してまいりました。特別講演のタイトルに惹かれましたね。『緑内障と転倒や転倒予防』です。講演してくださったのは、名古屋大学の眼科准教授。転倒オソルベし。30代の頃、自分は痛い思いをしましたので。真冬の糸病の医師駐車場でスッテンコロリン。左足を複雑骨折して、うちの病院で3ヶ月の入院生活を余儀なくされました。(第388話)
 
 つまずいて転びやすくなる年齢といえば、70歳から75歳だそうですね。70歳以上では、年間5人に1人が転んでいるそうです。視力が悪いと転びやすく、10人に4人が転倒しやすいと調査で分かっています。ここで緑内障についてご説明いたします。緑内障とは眼圧(目の中の圧力)が高いことにより、視神経が圧迫されて、視野(見える範囲)が狭くなってゆく病気です。40歳以上の20人に1人、70歳以上では9人に1人と、年をとるにつれてかかりやすくなる病気です。人生100年時代、いみじき問題。現在では、狭くなった視野を回復させる方法はありません。とりわけ緑内障で下方周辺視野が狭くなった人は転びやすく、はげしく怪我をすることが分かっています。
 
 ここで、講演内容を要約いたします。緑内障患者さまは、家の中で転びやすいとのこと。転倒しやすい場所は、お風呂、玄関、台所。障害物があると転んでしまいます。モノは無造作に床に置かず、部屋の整理整頓を心がけることが肝心だそうですよ。カーペットやキッチンマットがめくれていていたら、危険です。撤去するべきとのこと。なお、緑内障患者さまは、家の暗い所で転倒しているそうですね。夜、トイレに行く時、電気をつけると目が覚めちゃうから、暗いままで階段を降りて転ぶケースが多いようです。部屋は明るくしましょう。なお、こたつのコードにひっかかって転ぶことも多いので、この季節は要注意です。おうちでは、スリッパや靴下をはいちゃダメとか。つんのめったり、滑って転ぶ原因になるそうでよ。うーん、真冬に裸足はツライ。
 
 なお、目が悪いと、介護リスクが高まります。暗い所では、ぶつからないように手探りしながらソロソロ歩くように、視力、視野が悪くなると歩行速度が遅くなります。屋外での身体活動量も低下します。また目が悪くなると、転倒恐怖感から動きたくなくなってしまいます。身体活動量が低下すると筋力が落ちて余計に転びやすくなり、骨折等で介護のリスクが高まります。これは負のスパイラルですね。
 
 では、高齢者や視覚障害のある人が転ばないためには、どうしたら良いでしょう。それは1日10分の体操がお勧めだそうです。グループ体操(ラジオ体操)や在宅での転倒予防体操は、転倒のリスクを30%減少させると言われます。そこで推奨されている在宅での転倒予防体操をご紹介いたします。
1) 座布団の上で片足立ち
2) 前後、左右へステップ
3) よつばいになって、バランスをとる
4) 立った状態でスクワット
5) 立った状態で太もも上げ
6) 立った状態でかかとの上げ下ろし。
 ダンスをなさる方なら、ピンときますよね。3)以外は社交ダンスの基本の所作です。ボールルームダンス(社交ダンス)は転倒予防そのもの、先見性のある優れたスポーツだったのでした! 
 
 ダンスを始める前の自分は、凍った路面で転倒して、まさかの骨折。手術を受けて、しばらく左足は床につけませんでした。お尻の筋肉が萎縮して、わずか2週間で左のお尻の大きさは右のお尻の半分になりました。(第294話)読者の皆さま、ご自分は若いし、目も良い、転ばないと過信しておられませんか? 
♪あぶない あぶない 冬はほんとに ご用心〜
雪国の冬を甘くみてはいけませぬ。自分は転倒時、ヒールのあるスタイリッシュなロングブーツを履いていました。今は安全なゴム長靴。老いも若きも目の病気があるなしにかかわらず、滑りにくい靴の着用を! 滑りにくい靴は、60%もの転倒予防効果があることが分かっているそうです。
 
 最後に皆さまへメッセージ。令和6年度の日本の健康寿命は、男性72.57歳、女性75.45歳。転倒を予防して、健康寿命を伸ばしましょう!
著者 眼科 池田成子