第415話 “ in 10 years “

コラム

 先月開催された日本眼科手術学会総会、会場は福岡国際会議場。開催地は、10年ぶりに福岡でした。ちょうど10年前(第172話)は、富山空港から飛行機を利用しました。利用客が減り、富山福岡便は廃止。今回は糸魚川駅からJRを利用して博多への移動です。糸魚川は大雪です。雪国の田舎人、ゴム長靴でいざ出陣。
 
 往きの電車にて。つるぎから、しらさぎに乗り換えて米原へ向かう途中、車内アナウンスが流れてきました。
「雪のため、列車に遅れが生じております。米原発9時53分、京都行き新幹線ひかり633号には、お乗り換えできません。」
えーっ! 田舎人、アタフタ。車両を歩いている車掌さんを捕まえて、どうしたら良いか訊ねました。車掌さん、分かりませんとのこと。JRの管轄エリアが違うそうです。米原駅に着いたら、新幹線乗換口で聞いて下さいとのことでした。
「本日中に、博多に着けると思います。」
車掌さんはポーカーフェイス。でも、何だか楽しそう。これって、被害妄想?
 
 田舎人、米原駅に着くやいなや乗り継ぎできなかった切符を握りしめて、新幹線乗り換え口に駆け込みました。「事故列変」の赤いスタンプを切符に押してもらい、後続の新幹線で博多駅へ到着。ほっ。実はその日、博多駅前のドレス店、ひさやさんとアポイントしていました。競技用ドレスをオーダーするためです。知る人ぞ知る、ひさや製のドレスといえば、日本を代表するブランドです。(第222話)競技用ドレスは、「武士の刀」と言われます。勝つためのドレス、自分はひさや製を愛用しております。福岡で学会のあった10年前も、お店に寄らせていただきました。あれから10年。ひさやさん、顧客のカルテを開いて、採寸開始。10年、15年前と体型はほとんど変わっていませんとの診断。ほっ。少し、お尻が小さくなっていますとのこと。
 
 お店でドレスの打ち合わせを終えて、今回の福岡行きの目的を達成したかのように思えましたが、実は明日から学会でした。10年前の手術学会では、博多駅前の主要ホテルから、会場への送迎シャトルバスが出ておりました。不景気なのか、今回はそのサービスはなし。田舎の雇われ医者にとって、タクシーを利用しての移動は敷居が高いです。博多駅前から国際会議場行きのバスを利用することにしました。
 
「バス、どうやって乗るんだっけ?」
 田舎から来た石器人、学会前日にシミュレーション。ひと昔、確かバスに乗る時は整理券を取って、バスを降りる時は整理券と運賃表を確認して料金を運賃箱に入れる…。お札は千円札のみが車内で両替可能…。バスもダンスと同じ? チビ・ハゲ、初めての競技会場では、当日右往左往しないよう、前日下見に行きました。前泊するホテルから会場までの道順、駐車場は十分に広いか、会場内のスペース、フロアの状況、古い体育館の場合はエレベーターはあるか、トイレは和式か洋式か、便器の数もチェックしました。(第36話) 何事も首尾よく運ぶためには、下準備が肝心です。手術学会の当日は安全かつ安心してバスに乗るため、前日に国際会議場行きのバス乗り場に足を運び、バスを利用するお客さん達をとくと視察しました。そこでは、乗車時に整理券を取っている人は誰一人いません。みなさん、タッチパネルにスマホやカードをかざして、キャッシュレス決済です。大人も子供も、腰の曲がったお婆さんも…。
「えーっ!! 現金はダメなの?」
田舎から来た石器人、その光景に恐れおののく。(ムンクの叫びマーク)
 
 福岡のホテルへチェックイン。ホテルのフロントで、自分が真っ先にたずねたことは…。
宿泊客:「現金で、市バスに乗れますか?」
フロント係:「はい、乗れます。」
石器人、ここ糸魚川ではICカードは使いません。学会当日の朝はドキドキ。無事、市バスに乗れるの? タッチパネルとは別に、バスの乗り口の対側には整理券発券機が設置されていました。ほっ。乗車時に整理券を引いた後、コワいので自分は運転手さんの真後ろにピッタリと貼り付くように立ち、バスの中の一部始終を伺っていました。昨日と同じです。自分以外のお客さんは、みなさんタッチ決済をしています。あら、自分と同じ。整理券を引いてバスに乗り込んだ女性客がいます。50歳前後と思われるその女性、降車時にバス運賃をコインの両替口に入れようとしているではありませんか。
「そこは違います! 運賃箱にお入れ下さい。」
運転手さん、ちょっと慌てています。21世紀において、自分よりも手強いホモ・サピエンスがいたという事実に、田舎から来た石器人はニンマリ。(笑)
 
「雪国から来ました!」
 そう言わんばかりに、膝丈もある雪国仕様の黒いゴム長靴で、学会の会場内を闊歩しました。総会長企画、「ロボット手術の最前線」は興味深く拝聴いたしました。10年前の手術学会、ロボットのロの字もありませんでした。眼科手術はマイクロサージェリー、顕微鏡下で行います。ブラック ジャックと呼ばれる名医でも、「手ぶれ」という視点からはロボットに到底叶わないそうですね。手術に関しては、ロボットは人よりも上だそうです。
「人は、いらなくなるの?」
日本全国から集まったドクターたち、学会でそんなデータを見せつけられて心中穏やかではないのでは? とはいえ、今回の手術学会では、ご安心下さいとばかり。ご講演なさった先生いわく、全てロボット化する財源は、どの病院も当面はないでしょうからと。
 
 学会の教育セミナーでは、白内障手術の基本手技とその指導について、拝聴してまいりました。当院では、眼科医を目指す研修医を指導しております。「うまくゆくのは理論がある。」、「うまくゆかないのは理由がある。」、「患者を診た時から手術は始まっている。」研修医を指導する際、そう教育いたします。そして、「なんでだろう?」と、知的好奇心を持つことも大切。これは手術に限らず、他の仕事においても、ダンスでも共通しますよね。
 
 最後に、博多といえば、めんたいこに豚骨ラーメン、もつ鍋です。10年前と同じ、今回のランチョンセミナーで支給された学会弁当には、明太子にモツらしき肉が入っていました。せっかく博多に来たのだから、博多ラーメンを食べなきゃ!と、学会最終日、新幹線に乗る前に博多駅構内にある人気ラーメン店「Shin Shin」に向かいました。そこには壮絶な光景が…。恐るべき長蛇の列。最後尾はどこ? まるでコロナ前の、早朝に競技会場の開場を待つ、関東甲信越競技ダンスの選手達のごとし。ラーメンを待つお客さんたち、店の周りでとぐろを巻いています。お客さんの列はフロアに収まりきれず、駅の階段下まで続いているではありませんか。木曜の夕刻にお店を下見した時は、ベンチに腰掛けて待っているお客さんは3人ばかりでした。人気のラーメン店は、日曜となれば千客万来。下準備が足りませんでした。残念ですが、今回は博多ラーメンを食べるのを断念。
 
 今年の4月には日本眼科学会総会があり、ラッキーにも開催地はまた博多です。自分は参加予定です。博多ラーメン、下準備は万全です。ラーメン、LOVE! ダンス、LOVE! 医は仁術なり。AI、ロボットに負けるな! 眼科医、ファイト!(笑)
著者 眼科 池田成子